cafe watoto | 「人生のあみだくじ」を経てここに来た - 小浜解体新所

小浜市街地から、「お水送り」(※)が行われる鵜瀬(うのせ)へ向かう一本道の途中、うっかり通り過ぎてしまいそうな分岐点を曲がるとすぐ、忠野(ちゅうの)という小さな集落があります。遠敷川(おにゅうがわ)と多田が岳の間に建つ一軒家を使ったcafe watoto。予約してお店に向かうと、駐車場は満車、すでに店内はお母さんや子どもたちでいっぱいの賑やかな店内になっていました。

(※お水送りとは)

毎年3月12日に奈良東大寺二月堂で行われる「お水取り」に先がけて、毎年3月2日に行われる小浜市鵜瀬にある神宮寺で「お水送り」が行われます。昼前の山八神事から始まり、修ニ会の行、弓打ち神事や弓射大会を経て夕刻、大松明を先頭に行者姿、白装束の僧や一般参加者が松明を手に2kmの行列で鵜の瀬に向かい竹筒のお香水を奈良に向かって送る厳粛な神事です

少し早めについたので、お庭周りを散策。

watotoのわんこたち(タイガ・トト・アルバ)が遊んでくれました。

オーナーの梶本良司さんは、大分県出身。このwatotoにたどり着くまでの、様々な出来事をお話していただきました。

watotoの歴史

まずはwatotoのお店のプロフィールから参りましょう。

「ここは移転してきたお店で、前は小浜の谷田部(やたべ)というネギが有名なところにある茅葺の古民家でお店をしていました。お店を始めて2年半くらいしたときに、大家さんから違うことに使いたいので移転してもらえないかという話になり、さあ、どこにしよう?と思っているときに、この忠野の家を見つけました。」

山と川の間にあり「憧れの古民家」という感じの、静かな場所にある素敵な2階建。

思わず、築何年ですか?と聞いてしまう一軒です。

「実は、この古民家は移築された古民家でして築10年ほどです。しばらく倉庫の中に入っていたんです。」

倉庫の中と言われると家の外に大きな倉庫が建っていたのか?と想像してしまいますが、そのままの形ではなくバラバラに解体されて材料が保管されていたのだとか。

神宮寺から鵜瀬までの一本道は、年に一度、3月2日にお水送りの松明の行列が通ります。道中にあった当時の民家は道路に少し出ていて邪魔になっており、立ち退くこととなりました。

「立ち退きになるのなら、新しい家を建てるので潰して捨ててほしい」と、持ち主の方は工務店へ解体の依頼をして、工務店の方は解体したものの、材料が立派すぎて、捨てられず、ばらした状態で材料を保管。

約10数年前に、保管されている古民家を、兵庫県西宮市在住の作曲家の方が見つけ、別荘として利用するために購入・再建されたのが現在のwatotoになります。

作曲家である大家さんは、シンクロナイズドスイミングのオリンピック代表の学曲を作曲されている方なのだとか。

解体がなければ築75年程になるお家。再建10年なので古民家というのかは分かりませんが、梶本さんによって大切に活用されています。

少し変わった経歴を歩んできた古民家で開かれているwatoto。
大分県生まれのオーナー梶本さんがここに来るまでの経歴もお伺いしました。

「私の実家はお寺なんです。なので、大学の時に京都の大谷大学へ行っていました。ですが、大学1回生の時に両親が別れて寺を出てしまったので、実家のお寺を継ぐことなく自由にしていました。卒業後は京都、大阪で仕事をして自由にしていたのですが、やっぱりお坊さんになりたくなり、お坊さんになりました。

最初は大阪のお寺で勉強させてもらっていましたが、小浜にあるお寺から後継ぎがいないので継いでもらえないかと話があり、小浜へ来ました。

ですが、お寺へ来て8年〜9年経ちましたが後継の話がなかなか進まず、後継はやめることにしました。」

「そのお寺はやめましたが、お坊さんはやめていません。お坊さんをやりながら、お寺に籠もらずに世間に出ていくにはどうすればできるかなと考え、

『集まる居場所』というキーワードで、お寺さんとカフェであるwatotoを開いています。」

いつまでも若いわけではない。
若いうちにしたいことがある。
そう思い、watotoを開いた梶本さん。
「若くはないですけど」と笑いながら話します。

watotoに込められた意味

お店の名前「watoto」は、アフリカの言葉で「子どもたち」という普通名詞。

「大人も子どももみんな仏の子」というお寺の標語があります。

親になっても、おじいちゃん・おばあちゃんになっても、「仏の子」であるという立場は皆一緒。

先に生まれた親が偉いというわけではなく、みんな「仏の子」。

「仏というのは漠然としていますけど、大きな命を生み出す働きのようなものですよね。何かわからないですけど無限に命が、木でも、犬でも与えられている。それを生み出すような根源が「仏」だと思っていただけるといいかなと思います。」

「仏の前に立つと、子どもですから完成品ではなく、これからも学んでいける。大人であっても学ぶことができるというイメージになります。」

自然な形で触れられるように。そっと並べる本たち

watotoには部屋のあちらこちらに本が積み重ねられています。

「生きる哲学」「14歳のための時間論」「よく生きるヒント」など、ふと手に取りたくなるような、気になるタイトルが並んでいます。

「誰しも順調なときばかりではないじゃないですか。一人で悩むときもあるし、家族の死別など、人生のどこかで出会うことがあると思うんです。そのときに、こっちから強制じゃなくて、「お!こんな所に良い本あるやん!」となるように、自然な形で触れてもらえるかなと思っています。“死とは何か”とか、そんな本ばっかりなんですけど笑」

キッチンの奥の図書室のような空間にもたくさんの本が並びます。
誰でも読んでOK。無料でレンタルもしておられます。

お寺のお勤めと、カフェと。みんなで一緒にやっていく。

お店は、11:30オープンですが、お伺いした日は12:00オープン。この日は午前中に法事があり、カフェオープンに合わせて慌てて帰ってきたそうです。

忙しいときには、近くの作家さんに手伝いをお願いしておられ、この日は革細工の作家さんが来ていました。

「革細工というと動物の革なので、お坊さんには合わないような感じがするのですが、そういうのは考えないでみんな一緒にやって行くという考え方なんです。」

この翌日にはお寺の集まりがあり、お勤めをして会議をする予定が入っており、営業後にはお寺仕様に整えなければいけないのだとか。

部屋のあちこちにお寺を感じる道具が置かれています。

watotoのゆる薬膳とは

経緯の話が長くなってしまいましたが、watotoの料理は薬膳料理。玄関に入ってすぐにあるオープンキッチンで奥様が料理をされています。

「季節で育ってできたものを食べるということは大切なのですが、かなり緩くしています。薬膳に力を入れた結果、我慢して食べるとなるのは嫌なので「ゆる薬膳」というテーマでごはんを作っています。」

「特に食材の産地にはこだわっていないんです。

1日だけ薬膳料理を食べても意味がないので、真似て家でも作ろうとなったときに、スーパーで簡単に手に入るようにしなければ意味がないと思っています。ですので、うちも普通にスーパーで買って来たような食材で作るようにしています。」

「薬膳料理は医食同源が基本です。食べたもの飲んだものでしか体は作れません。

最近テレビを見ていると、珍しい食べ物とか、いっぱい食べるとか、辛いものを食べるなど、”食べる”ということが遊びになっていますよね。

基本に戻ると、食べたもので体を作るし、体が悪くなると食べたもので治すというのが当然の考え方で、基づいて行くとやはり季節のものを食べるというのが大事なんです。

人間と環境は何億年かけて一緒に育って来たので、その時期に食べると良いというのは当然のことですよね。」

「月の前半・後半でメニューを変えています。

“旬”という考え方では上旬・中旬・下旬なのですが、それだとすぐにメニューが変わってしまうので。

前半・後半で変えて行くことで、食べられなくなるうちにもう一回行っとこか、と2週間に1回に来てくれるお客さんもいます。」

watotoでは料理教室も開催されており、そのときのランチメニューをそのまんま作る会が開かれています。10時ごろに集まってみんなで作って12時から食べて、1時〜2時に解散という流れで、気軽に参加OKだそうです。

移住して約12年目になる梶本さん。ある意味、消去法でここに来たと話します。

「大学を出てお寺を次ぐつもりが、それがなくなって“え!?”みたいな。

しょうがないので就職したけど合わなくて1年でやめちゃって、”え!?”…と。

お寺に来たけど継げないの?“え!?”と、やっているうちに、できることで残っていることがこれだったという。人生は、何かとの出会いでどんどん変わっていきますし興味の沸いたことで道は変わっていきます。あみだくじのように、成り行きになっていって、もともと描いていた物語は全然進まなかったんです。」

梶本さんはwatotoに来たお客さんひとりひとりにさりげなく声をかけてくださいます。

「お釈迦様もそうなんですが、ノックされて“何?”と、戸を開けるのが正しいと思うんです。自分から行くと勧誘になってしまう。
“俺の話を聞け”ではなくて、
“俺はこっちの方向を見ているけど一緒に見る?”
“俺はこれを信じてこっちへ向かっているけど一緒に行く?”という姿勢でいくようにしています。
“俺が正しい”と言ってしまうと宗教じゃなくなってしまうので、ひたすらノックを待つだけです」

現在は、コロナウイルスの影響で、11:30~15:30の短縮営業中。ゆる薬膳ランチは毎日30食限定の為、予約でいっぱいになってしまうという日もあります。

お客様は、小浜、若狭町、高浜、敦賀、おおい町が中心ですが、舞鶴や福井市といった程良い距離から日帰りの小旅行で来られる方も多いという人気カフェです。

温かく開かれた雰囲気のwatoto。

それぞれの人生のあみだくじの途中で、watotoをのぞいてみてください。

梶本さんが、ノックを待っています。

所在地: 〒917-0245 福井県小浜市忠野9-14
営業時間外 :営業開始: 11:30〜15:00
定休日:木曜・日曜
電話: 0770-56-3893

SNS
Facebook:https://www.facebook.com/cafe.watoto/
Instagram:https://www.instagram.com/cafe_watoto_kajimotoryonin/

写真が好きな梶本さん。SNSには子どもたちの写真がアップされています。

おまけ

watotoのわんこたち

あみだくじのように、成り行きでwatotoにたどり着いたという梶本さん。犬たちも自分から飼おうとして集まったのではありません。

「ある日市役所の人が来て、“別の寺に犬が3匹捨てられてたんやけど、育ててもらえんか?”という話がありました。」

「真っ白の犬と、真っ黒の犬、茶色いダンボールを食い破っている変な犬の3匹がいて、でも僕、犬アレルギーなんですよ(笑)」

でも、明日殺処分だと聞いて。

“犬アレルギーやから、ちょっと色々回ってもらって明日残ってたらもう一回来て”というと、翌日ダンボールを食い破っている変な犬が売れ残ったみたいで、しょうがないから飼おっかと飼い始めたんです。

watotoを始めたら、お店をしている間は一匹でいるので、さみしいかなと思って、こちらから保健所に連絡して殺処分して捨てられる子がいたら連絡くださいと話しました。

すると、すごい悲惨な生後一ヶ月の犬が来て。腐ったような匂いがしていたんですけど、それがトトちゃんです。

紆余曲折合った彼らも、今は梶本さんの自宅兼watotoでのびのびと暮らしています。軒下から三匹がそれぞれの自由な姿でお迎えしてくれます。