BEAU | 地域資源を活用して地域でしかできない学びの環境をつくる、大学生起業家の挑戦。

福井県は教育水準が高いことで知られており、文部科学省が行っている「全国学力・学習状況調査」では、小・中学校ともに福井県の子どもたちの平均正答率が全国平均を大きく上回り、都道府県別ランキングでは常に上位に位置しています。さらに「全国体力テスト」においても、優秀な成績を修めており、福井は全国が注目する教育先進県だと言えるでしょう。

しかしそれは外部から色眼鏡で見た感想です。実際に福井県で生まれ育ち、教育について考え、起業までしてしまった学生がいるんです。今回お話をうかがったのは、一般社団法人BEAU(ビュー)で理事兼COO, BEAU LABO チーフディレクター & Founderの田川裕大(たがわ・ゆうた)さん。福井県立大学経済学部に通う大学生です。

最近福井を賑わせている教育系団体であるBEAUですが、いったいどのような活動をされているのでしょうか。

「BEAUはもともと、BEAU福井という名前で活動をする高校生の団体でした。高校生と福井について知り伝えてくブログメディアを主な活動内容として、代表である小原涼が2017年から運営していました。大学1年生の頃、とある高校生を応援する団体のキックオフイベントで、僕と小原と出会ったことがきっかけで、BEAUにジョインする形となりました。」

BEAUとは、The best education for all of us.の頭文字を取って名付けられたのだとか。

「高校生を対象とした教育プログラムの企画運営」を通して、

  • 「ボーダーレスでタスク型ダイバーシティを推進する教育環境」
  • 「地域社会に密着した持続可能な教育環境」

の研究、実践をしておられる活動団体です。2020年からは法人化し、一般社団法人BEAUとして活動されています。

右がBEAU代表の小原涼さん。

高校生の学びや夢を応援するには、何をすれば良いのだろうか。

高校生が「経済を学びたい」と思ったときに、彼らはどこで学べるのだろうか。

今の社会では「大学生にならないと学ぶチャンスや範囲が少ない」ということに違和感を感じていた田川さん。高校生が学びたいと思うことを学べる仕組みづくりや教育現場を作りたいという思いから、BEAU福井から一般社団法人BEAUとして活動がはじめ、2019年9月にBEAU LABOの計画をスタートさせました。

「今、地方で生きる高校生は『学校』と『家』の往復になりがちで、地域社会と関わることがあまりできていません。学校での教育もそれだけではなく、目的を持つきっかけや更に地域社会の中でボーダレスに学ぶことが出来る環境が今、私は必要だと思います。

実際、自分自身が高校生の時にも、社会の一員であるにも関わらず、目の前にあるのは高校生としての学習が多く、そうでは無いのにと感じることが多くありました。」

そんななか、高校生は社会の一員じゃないような教育に違和感を感じていることを信頼している高校の先生に打ち明けたところ、

「きみが社会と関わっていきたいのなら、僕がいろんな地域へ一緒に行こうよ。地域の活動をしていけば、違和感を払拭するヒントがあるんじゃないかな。」

と声をかけてもらったそうです。そこから高校生の田川さんは、地域と関わるきっかけを掴んでいきました。

大野で地域づくりに関わった高校時代

「小学校6年生の頃からずっとバレーボールをしていたんですが、高校2年生のときに無理をして骨折してしまいました。練習に出られず時間が出来たのがきっかけで、『自分って何だろう』と深く考え、『自分自身が社会に対してもっとできることがある』というテーマに辿りつきました。自分で言うのも恥ずかしいですが、僕はもともとリーダー気質があって、生徒会長をしたり、ボランティアに行ったりしていました。なので、社会に関わりたいという気持ちが生まれたのも、自然な流れだったと思います。」

田川さんは「まちづくり」「地方」「限界集落」というキーワードに興味を持ち、現場を見ようと福井県大野市主催の「越前おおの観光プロデュースコンテスト」に参加。農業エコツーリズムやグリーンツーリズムの観光作りについて考えたプランが審査に通り、大野へ5泊6日のフィールドワークへ行くことになりました。

「高校3年生の夏に大野市の阪谷(さかだに)地区へ行き、想像していた景色と実際の景色が思っていた以上に違っていて、集落の現状に危機感を感じました。ですが同時に地域に愛着を持ち、大野市や阪谷の地域が好きになりました。」

親戚がいるわけでもなく、これまで大野市との関係は特に無かったそうですが、今では阪谷地区の青年団にも入っているほどの密着度なのだとか。

「大野市での経験から、僕は自分の故郷である福井を守っていきたいし、限界集落が無くなっていくのはどうなんだろう…と思いました。この地域や福井に可能性を感じているので地元でまちづくりをしていきたいと考え、県外の大学ではなく福井県立大学で学ぼうと進路を決めました。」

高校生時代は地域づくり活動のプレイヤーだった田川さん。BEAUの活動を始め大学生になってからは、活動の場を提供する側へ立っていると話します。

 2020年春に始まったBEAU LABO とは?

「BEAU LABOでは、高校生が興味のあることを探求できるプログラムを作っていこうとしています。」

 大学に進学する前に経済、メディア、農業、医療福祉など、大学で専攻できる分野に関して、高校生の間に3カ月で触れ、実践的な学びができる教育プログラムを作っています。BEAU LABOの参加者は高校1年生〜3年生まで。

プログラムの中では、様々な出会いが生まれています。

  • 地域の方との触れ合い
  • 現役大学生という、高校生にとって一歩先のロールモデルとの出会い
  • 同じ高校生である同世代との学びと出会い
  • 地域社会で活躍するプロフェッショナルとの出会い

BEAU LABOは1期3カ月間のプログラムになっており、四半期に分けられています。

2020年の第1期は7名でのスタートでしたが、2期は33名、3期生は72名の参加となり、順調に参加者が増えてきています。

「1期目はオフラインでスタートしましたが、2期目以降は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンラインに切り替えました。その結果、嬉しいことに1/3は県外からの参加者となり、北は北海道〜南は九州と、参加者の幅が出てきました。」

参加者の集まり方は人それぞれ。過去参加者からの口コミや、検索で発見した方もいるようです。

「福井県内の高校の先生にも知っていただいています。うちの生徒に参加を勧めたいという声もあれば、逆に、まだここに参加させられるほど生徒たちの実力が追いついていないという声も聞いています。

BEAU LABOは現在4期目。これまでの参加者は、北は北海道、南は九州という日本全国各地から様々なバックグラウンドを持つ高校生が参加しています。ちなみに、その約半数を福井県内の高校生が占めているそうです。

第3期最終プレゼンテーションの様子

大学生と高校生の交わりと、それぞれの役割。

BEAUを運営をしているCEO小原さんとCOO田川さんはお2人とも福井県出身。

田川さんはお話をうかがった通り、現役大学生でありながら、福井県で事業を展開して参加している高校生や先生との調整をしたり、デザイナーとしてグラフィックデザインや、webサイトの運営を行っています。

小原さんは現在東京に在住の社会人。教育の最先端を東京で学びBEAUに落とし込んでいく、ということを中心に活動されているそうです。

「場所は違いますが、プログラムを一緒に作っていっているという感じです。小原は東京で未来を見ながら。僕は福井で現在を見ながら、という感じです。

プログラムの中で僕らが決めているのは経済学、メディア、農業、医療福祉などのLABOの分野だけです。分野の中のカリキュラムは、参加者である高校生の興味と好奇心で作り上げていきます。ですので、カリキュラムは参加する高校生によって毎回変わっていくんです。」

例えば観光分野では、あわら市の観光協会と連携し、市内の観光資源を調査しパンフレットの作成などを行いました。農業分野では、映画「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんと自然栽培について対談をするなど、それぞれの分野で好奇心を持った探究をされているそうです。
「3カ月間で高校生が取り組みを行うのは最低週1回です。高校での学びがベースにあってこそ、学外での探究活動があると考えています。そして、高校生が社会への一歩を踏み出したいと思ったときに、学校の勉強や部活をしながらでも、抵抗なく踏み出せるような場としてBEAU LABOを提供していきたいと思っています。」

BEAU LABOでは現役大学生が学生パートナーとして、3ヶ月の学びの伴走をしています。高校生の相談に乗ったり、フィードバックや、地域の方とつなぐ役割を担っています。

「学生パートナーの中には、戦略スタッフがいたり、高校生と関わるディレクタースタッフが在籍しています。高校生には僕たち2人だけを見るのではなく、たくさんの大学生からロールモデルを探すことも重要だと思うので、スタッフは各ラボに1人ずつサポートとして配置しています。」

BEAU LABO 学生パートナーの紹介
https://note.com/insidebeau/m/mf098eab100af

高校生からは「参加してよかった」と感想が続々と田川さんの元へ届いているようです。

学校では学べないけど興味のある分野を追求することができ、様々な出会いもある。充実した内容ですが、高校生の参加費はなんと無料。どのように運営されているのでしょうか。

「現在は寄付金などを中心に運営をしています。今後の展望としては福井県の企業からさらに寄付金を募り、その寄付金を高校生の学びに使いながら、地域全体に循環させていければと思っています。連携できる企業を増やしながら地域全体で学んでいけたらと思っています。」

高校生という時間。

 少し前まで自身も高校生だった田川さん。歳が近い高校生に対してどのような想いを持っておられるのかを聞いてみました。

「今、文部科学省をはじめ教育業界では『生きる力をはぐくむ』という言葉が頻繁に使われています。

高校3年間はすごく短いですが、大切な時間です。中学校は義務教育なので子どもとしての側面が強いですが、高校生はより大人に近づき、18歳で選挙権も獲得できますし、社会と関わりはじめる高校生だからこそ、自分で考える思考力を付け、自分の軸を持てるようになることが重要だと考えています。それが、生きる力をはぐくむことなんです。」

大学進学を考えたとき、一つの専攻分野を選ばなければいけない状況から将来を考えることが必要になる。だから中学生よりも圧倒的に社会との接点が近いと、高校生の近くに身を置く田川さんは感じておられます。

「部活であろうが、地域のことであろうが、何でも良いと思うんです。高校生のうちに何か頑張ったと言えるものがある生き方の方が素敵だなと思っていて、そんな生き方をたくさん作っていきたいです。」

地域活動やBEAUの活動を通して感じている、福井のいま。

福井の魅力は「人である」と話す田川さん。

田川さんは今、これまでの活動から福井のあちこちで出会った方々の姿を見て、福井には新しく挑戦することを応援をする文化があると感じておられます。

「よそ者を受け入れ、地域ぐるみで応援していくという空気感が好きです。BEAUの立ち上げパーティーを開催した際、応援するよ!と寄付金出していただいたり、可能性を応援し合う空気感が良いなと思いました。」

 「自分がやりたいことを口に出し続けたり、積み重ねを評価していただいたりと、言葉を発することで応援してくださる方がいるということを、BEAUをやりながら感じています。」

最初は参加者が7人でどうなるのかな…と本心では思っていたそうですが、様々な人たちと出会い、形になってきて、これからの可能性が見えてきているそうです。

BEAUがこれからめざしているところ

「地域に密着した持続可能な教育環境をつくっていきたいと考えています。今まで言われていた『地域でもできる学び』ではなく、『地域でしかできない学び』について研究し、様々な地域の資源を活用したプログラムをつくっていきたいと考えています。」

田川さんが大学に入学する際、親には「自分のやりたいことを追求する4年間だから、見守って欲しい」と伝えてあるのだとか。

高校生のときに感じた教育の違和感を、大学生となり自らの力でプログラム化していくというスピード感を感じました。

誰かが走らないとついて来る人はいない。

先駆者がいないとそのあとは続かない。

現役大学生が企画する高校生のためのプログラムの先駆者である田川さんと一緒に、あなたも走ってみませんか?

【BEAU】 
学生パートナー13名
福井大学/大阪大学/名古屋大学/南山大学/新潟県立大学/早稲田大学/静岡文化芸術大学/立命館大学/静岡大学/慶應義塾大学/富山大学/福知山公立大学/福井県立大学

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note   https://note.com/insidebeau 
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田川裕大note https://note.com/0131___yuta